巨大なフロンティアをテーマパークに変える

進化し続ける『ヒルズ』

2023年秋に華々しくメディアにお披露目された森ビル主導の巨大再開発プロジェクト『麻布台ヒルズ』。都市型商業モールの究極の到達点ともいえる店舗部分は単なる商店建築という枠を超えた圧倒的なデザインクオリティが目を瞠ります。ニューヨークの都心の開発トレンドを追うかのように高さ325mとなるA街区メインタワーの上層部はオフィスではなくアマンのブランデッドレジデンス。世界有数のスモールラグジュアリーリゾートとホテルを擁する「アマン」(Aman)とのパートナーシップにより、アマンの姉妹ブランドとなる日本初進出のラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」も24年4月に開業しました。東京都心でも超富裕層のためのエクスクルーシブな空間が開発事業者にとっての最適利用となる時代がすでに到来していると言えます。森ビルの凄みは単なる超ラグジュアリー開発を超えて、都市のパブリックを念頭に置いた空間構成を実現していること。約24,000㎡とされる都心の圧倒的なグリーンを核にチームラボや麻布台ヒルズマーケット、アートギャラリー等が玉手箱のように配置された最上級のテーマパークが出現しています。
オフィス部分はハード面では現時点の世界最高水準の性能を備えたものであろうと容易に想像がつきますが、面白い試みとして、入居テナント企業・ワーカー向けのメンバーシップフロア『ヒルズハウス』が設けられていることです。メンバーズラウンジやダイニングを備えたクラブハウスのようなもので、今後同プロジェクトに入居する慶應義塾大学予防医療センターとの連携等も計画されているようで、今の世界の潮流となっているLife Style Office、ミクストサービスを実現したものとなっています。

同時期に開業した同じく森ビルの虎ノ門ヒルズの4棟目となるステーションタワーも最上層部にはビジネスやアート、テクノロジー、エンターテインメントなど領域を超えた情報発信拠点となる『TOKYO NODE』が開設されています。建築デザインに携わったOMAの重松象平氏によると、「「私はよく『BENTO BOX』に喩えるのですが、一般に建築家は『弁当箱』を設計させられます。中身はもちろんディベロッパーなどが決めます。ただ、弁当の中味がすでに決定していたら、箱をいかに頑張って設計したところでそれによって中での経験が根本的に変わることはない。私は中身から提案したかったので、この虎ノ門を象徴するものを打ち出しました。地理的にビジネスの中枢や官公庁にも近いですし、たとえばTEDトークなどを東京でやる際は必ずここで、と言われるような象徴的な施設を作りませんかと提案したんです」(https://hillslife.jp/innovation/2023/07/20/station-tower-a-line-through-the-beating-heart-of-tokyo/)とのこと。超高層ビルの足元と最上部をパブリックスペースとしてオフィスフロアを挟み込むとともに、敷地外の公園・道路動線を建物内に引き込む。建築家の都市コンテキストを読み込んだコンセプチュアルな構想をこの規模でそのまま実現してしまった例は世界的にも稀ではないかと思われます。働く場所に求められるものは、文化やエンターテイメントとの近接性と人との出会い・交流に完全にシフトした今、建築プログラム面でも多様なアクティビティを立体的に配置していくことが事業企画面でも需要な要素になります。単なる表層的なデザインではなく、不動産のプログラムまで建築家が提案し発注者であるデベロッパーと対話を重ねながら建築を作り上げていく、という画期的なプロセスを虎ノ門ヒルズステーションタワーは体現しているように見えます。

出所:HILLS LIFE記事(2023年7月20日、建築家・重松象平が東京の未来を促す、 ステーションタワーという名の〈結節点〉|ヒルズライフ HILLS LIFE
Office for Metropolitan Architectureホームページ(Toranomon Hills Station Tower (oma.com)

森ビルは今後、六本木五丁目西地区再開発プロジェクトと呼ばれる六本木ヒルズ近接地の超大型再開発を着工していくことになります。延床面積は100万平方メートル超えと日本の都市開発史上最大級(ただ、三井不動産や帝国ホテル、NTT等が進める内幸町再開発、同じく三井不動産主導の築地再開発も同規模であり、東京のプロジェクト巨大化の流れはとどまることを知りません)になり、六本木から麻布台を経由して虎ノ門へと至るヒルズエリアがとてつもないことになりそうです。

日本の都市再生の源流は都市部に生まれた広大なフロンティアを新規開発していくことでした。80年代のウォーターフロント開発(東京湾岸、横浜MM21等)や1990年代から始動した旧国鉄跡地の再開発(汐留、品川、梅田等)が進められ、2000年代に都市再生のシンボル的存在として開発された六本木ヒルズや東京ミッドタウン(六本木)が一つの到達点であったといえるでしょう。一方、汐留は電通本社ビルの低層部商業部分の店舗リーシング苦戦が伝えられたり、その他の超高層ビルについても売却の話をちらほら聞きます。土地区画整理事業的に敷地を分割して個別売却(大手デベロッパーや大手メディアに)してしまったがゆえに、街のコンセプトが見えづらく、エリアマネジメント不在に陥ってしまいました。これに対して六本木ヒルズや東京ミッドタウンは強力な大手デベロッパーが一貫性のある世界観をもって全体をマネジメントしており、超機能複合都市として開業15年から20年を経た今でも高い集客力を維持しています。建築デザイン、施設ユーザー、居住者、来訪者に多様で飽きられない時間消費体験を提供する多様な施設構成(ミクストユース・ミクストサービスと呼ばれるもの)、開業後のソフトコンテンツとエリアマネジメント、は極めて重要です。

日本の都市再生のもう一つの大きな潮流として駅公共交通一体型都市開発(Transit Oriented Development、TOD)が挙げられます。これについては次回にて。

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今も魅力を放ち続ける近代建築と都市計画

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駅公共交通一体型都市開発 - Transit Oriented Development